syntaxCoLtd’s blog

公務員辞めて起業した男のブログです

役所のDXを考えたい(第4回「マイナポイント」)

皆様は公的分野のデジタル化についてはどう捉えていますでしょうか。
「デジタル化が遅れてる」「そもそも非効率的」
というイメージ・経験をお持ちかもしれません。

この連載では、私が役所生活で経験したことのうち、特にデジタル化を阻む要因と感じたものを取り上げていきます。これにより、
「なぜそうなのか」「ではどうしたらよいのか or 難しいのか」
について、皆様の理解を深めていただく一助になれば幸いです。

第4回の今回は「マイナポイント」です。

マイナポイントとは

R4.6.30からマイナポイント2弾が開始されました。
マイナポイントとは、マイナンバーカードを作り所定の手続(長いので省きます)をした方が、最大2万円分のキャッシュレス決済のポイントがもらえるというものです。
当初は「R3.3末までにカードを申込み、かつ、R3.9末までに所定手続を済ませることで、最大5,000円分のポイントが貰える」(その後、4月末まで申込、12月まで手続きに変更)というものでした(第1弾)。
しかし、思ったより発行枚数が伸びずさらなるテコ入れとして、上記の期限を撤廃し、かつ、ポイント対象となる手続を増やして合計最大20,000円分のポイントが貰えるようになったものです。

カード交付の裏側

長いので結論を先に書くと、マイナンバーカード導入により、住民登録の現場の業務はかなり増えました。

あまり知られていませんが、カードはJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)で作成され、各市町村に送られてきます(市町村では作成していません)

受取ると、カード1枚ごとに該当者を端末で検索し、カードが役所に届いたことをカードとサーバに記録します(他にもありますが省略。なお、この処理、一頃よりは早くなったそうですが書込み命令を出してから1分以上かかります)

そして、カード受取案内ハガキを発送します。市民が受取に来た際に迅速に出せるよう保管用IDをカード収納ケースとハガキに記載する必要があります。
カード自体を発送する場合もありますが、その場合はさらに暗証番号書き込みの処理が別途必要です(また検索から)。この辺のフローの違いは省略します。

市民がカード受取に来庁されると、カードを取り出してきて、端末で検索(カード作成時点と住所・氏名に変動がないか確認とか、再交付有無とかいろいろ確認することはあります)、カードに暗証番号を設定してもらい、カードとサーバに交付状態であることを記録して終了です。

交付した後も、住所変更や婚姻・離婚等のたびにカードの変更(裏書もICチップ内も)もあります。電子証明書の有効期限切れによる更新業務もあります。もちろん、マイナンバーカード普及前は一切なかった事務です。減った事務はありません。
カードを使った市外転入の入力処理は楽になりましたが、カードの住所変更処理の方が長くかかるのでトータルで減ったフローはありません。

カード普及の目的

前述のとおり、住民登録の現場についてはカード普及につれ行政コストは上昇傾向にあります
したがって、その分、他の行政部門をスリム化し国全体でプラス効果を産み出す必要がありますが、カード普及と行政の効率化はどのように結びつくのでしょうか。
ここでは、マイナンバー付番による行成効率化と、カード普及によるそれは分けて論じる必要があります。前者だけならカードを普及させる理由にならないからです。

マイナンバー制度の目的は、税・防災・社会保障ですが、いずれも本人同一性確認でしょう。「必要な人に必要な支援を届けるため」という言い方もあるようですが、所得隠しの防止、市町村を跨いでの給付金二重受取の防止、所得がなくても資産がある人には適正負担を求めるなど、「必要のない人に過度な支援をしない」という面の方が大きそうな気もします(今のところ完全には実現はしていませんが、目指すのはそこでしょう)。財源には限りがありますから、後者は前者の手段とも言えるわけで、全くの筋違いというわけでもありません。ただ、これはDBにマイナンバーが付番されていればできるハナシです。カード普及とは特に関係ありません。

では、どうしてもマイナンバーカードでなければならないシーンは何でしょうか。それは電子証明書の格納媒体としての役割です。大雑把にいうと厳格な本人(意思)確認とオンライン手続の両立です。

オンライン申請が普及すると市民は窓口に行く必要がありません(行政は対面対応が不要となります)。また正しくUI設計すれば手書き申請に比して正確な情報を入力させることができ、事後チェックがスムーズになります。住民対応コストが減少し、それにより余ったリソースをオンライン手続ができない情報弱者と呼ばれる方たちへの支援に回すことが可能になります。

つまり、オンライン申請の普及は、できない人にとっても望ましいものであリ、これこそがマイナンバーカード普及の目的であるべきです。

オンライン申請を装った窓口申請?

札幌市のマイナポイント申込窓口は7/11に予約方式で再開

他の回でも触れましたが、マイナンバーカードはデジタル社会のパスポートたるべき存在であり、社会全体に恩恵を齎す可能性を秘めていることから普及を図るべきです。
本来は利用シーンを増やすことでカード自体の魅力を高めることが肝要なことは言うまでもありませんが、将来的なコストパフォーマンスが見込めないから利用手続きが増えない(予算がつかない)、利用手続きが増えないから便利にならずカードが普及しない、の堂々巡りを断ち切るため、一時的にマイナポイントのような経済的インセンティブによる普及策を採るのは已むを得ないかな・・・と思っています(5,000円でダメなら20,000円、には驚きましたが、驚かせるくらいじゃないと効果は薄い、と判断したのでしょう)

そのマイナポイント申込ですが、先日、私が住んでいる札幌市から画像のようなLINEが来ました。
マイナポイント手続の急増によりJ-LISのシステムが動かなくなり、全国の役所のマイナポイント申込窓口で対応できなくなった件です。
J-LISのシステムの弱さについては報道されてない部分も含め度々現場で見てきましたが、今回、論じたいのは申込窓口の件です。

マイナポイントの申込手続はすべてオンラインで行う必要がありますが、自力でできない方でも安心してカードを取得してもらえるよう、国が自治体に支援窓口の設置を指導しました。
市町村は民間業者等に委託し窓口を設置し、業者は窓口で市民の申込支援を行います。
国から補助金(たぶん100%)が出るので、わざわざ節約して自前でやるところはないでしょう。地域経済のためにも。
支援内容ですが、

  • サイトへのアクセス
  • カードの読込(スマホまたはPC)
  • ポイントを付ける決済サービスの(画面上の)申込処理

などのいずれか、あるいは全部(結構いると思います)を行っているのでしょう。支援というより一部手続代行に近いのが実態かもしれません。
(暗証番号入力はさすがに自分でやってもらってるでしょうが)

さて、カード普及の目的は、オンライン申請の普及により社会全体を良くするためであるべき、という話をしました。
また、マイナポイントについては、カード普及のためにやむを得ない旨も述べました。
つまり、マイナポイントの目的は「(カード普及を通じて将来的に)オンライン申請の普及により社会全体を良くするため」であるべきです。
「オンライン申請用の窓口を設け、そこで(本人ではなく)担当者が処理をする」は、オンライン申請を装った窓口申請で意味がありません。

政府はデジタル化に「誰も取り残さない」としています。できない人に不利益があってはいけません。ですから、誰もがデジタル化についていくための機会を提供することが重要です(機会平等)。デジタルスキルが平等(結果平等)である必要はありません(無理です。そんなスキル要らない、という方も一定数残るでしょうし)。
「できる人はよりお得に、できない人はそれなりに」で構わないのです。

したがって、支援窓口は「申請の仕方を教室のように教える」ものであるべきです。
膨大な費用をかけてカード普及率は上がったとしても、オンライン申請のやり方を聞くため(というよりオンライン申請を代行してもらうため)に窓口に来庁するような人を増やしてどうするのでしょうか。それって行政コストは下がらないですし、自力不可だった市民自体も全然便利になってませんよね。

時々、レジで今使う分だけチャージしその電子マネーで払う人を見ます。
んなコトするくらいなら現金で払え、とレジ担当者も後ろに並んでいる人も思ってるでしょうね。いや、本来、これはレジでチャージ可能なのが間違っており、レジに並ぶ前に自力でチャージできる手段を用意せねばなりませんし(できればオンライン)、それができない人は諦めてもらうべきです(単に「わからないモノには手をだすな」です)。それと同じことです。

この点、税務署は(良くも悪くも)すごいですね。確定申告時期、税務署の周りに車がどれだけ渋滞し階段にどれだけ行列ができようがお構いなしです。「自宅でe-Taxでやれ」「出来ない人は並べ。e-Taxが普及すれば行列も減るハズだから」という思想なのでしょう。おそらく国の「署」だからできることであって市町村の「所」だとクレーム多数で無理な気もします。
結局のところ、DXを阻むものは日本人の意識なのかもしれません。