役所のDXを考えたい(第3回「ハリボテDX?」)
皆様は公的分野のデジタル化についてはどう捉えていますでしょうか。
イメージとしては、
「デジタル化が遅れてる」「そもそも非効率的」
さらに実際に役所のシステム開発に携わった民間企業の方であれば、
「カスタマイズ多すぎ」「要件が後から後から出てきて、手戻りが多い」
という経験をお持ちかもしれません。
この連載では、私が役所生活で経験したことのうち、特にシステム化を阻む要因と感じたものを取り上げていきます。これにより、
「なぜそうなのか」「ではどうしたらよいのか or 難しいのか」
について、皆様の理解を深めていただく一助になれば幸いです。
第3回の今回は「ハリボテDX」問題です。
住民票のオンライン請求
例として、一部自治体が導入している住民票のオンライン請求を考えてみます。
マイナンバーカードの署名用電子証明書(6~16桁のパスワード要)を用いて、自分の住民票を郵送で取寄せできます(手数料はクレカ払い)。一切、窓口に行く必要がありません。
市民にとっては・・・まぁ便利ですね・・・
コンビニ交付システム(因みにこっちは4桁の暗証番号)と二重投資な気もしますけど、あって困るものではないので、利用者目線ではこれをどうこういうつもりはありません。
また、 DXに関する費用対効果は将来を考慮すべきで現時点の状況のみで評価すべきではありません。将来性については後述します。
では、自治体職員としてはどうでしょうか。
住民票を郵送するまでの事務フローがどうなるかですが、理想は、
- 電子申請すると、自動でAPI連携し、一定時間までに役所のプリンタから証明書と宛名用紙がセットで自動印刷(プリンタ内に残して業務終了しないようある程度の余裕をもって締め時刻を設定)
- それらのセットを間違えないよう確認して窓あきの料金後納封筒に入れて発送する
- 電子申請の進捗管理システムに発送日を登録(請求者がネットで進捗状況を確認可能なように)
となります(あくまでも郵送前提の中での理想像です。後述しますが、そもそも、郵送不要な電子的手段による住民票(?)発行まで行かないとDXとは言えません)。
最悪なのは、
- 電子申請の有無を職員が一定時間ごとにシステムを確認
- あった場合には請求書として印刷(ない場合はその行為が無駄)
- 印刷された内容を目視しながら業務用端末で検索し、住民票をプリンタから印刷
- 封筒を用意して宛名を手書きし、申請書と住民票と封筒宛名を再確認
- 郵送受付簿に記入して発送
です。
何が最悪なのかというと、通常の郵送請求と事務フローが複線化してしまう点です。それもかなりの部分まで。ざっくりいうと、
- 郵送請求の場合、書類不備があると連絡しなければならない
- 電子申請の場合、書類不備はない(電子証明書で本人確認を行い、券面入力補助情報を使えば間違い入力は存在しない)
- 郵送請求の場合、手数料が同封されてくる
- 電子申請の場合、手数料は同封されてこない(クレカ決済)
- 郵送請求の場合、宛名を書いて切手を貼った返信用封筒が入っている
- 電子申請の場合、切手も返信封筒もないため職員が用意し、宛名を書かねばならない
という違いがあるため、最終的には郵送するのは同じでも、なかなか郵送申請分と事務フローを統合できません。書類を混ぜてしまうと、
「あれ、この申請、本人確認書類がないぞ? あ、電子申請か」
「あれ、この申請、手数料が入ってないぞ(以下、略)」
「あれ、この申請、返信用(以下略)」
と見るたびに判断が必要となりますし、郵送受付記録簿(通販している会社の方ならわかると思いますが、いつ届きますか? というお問い合わせが結構あります)にも電子申請である旨書かねばなりません(受付記録簿を分けるのなら、そこまで書類を分けておかないと事務が大変です)。
つまり混ぜても問題がない部分までは事務フローを統合できません。
「過渡期だからしょうがない、郵送申請より電子申請が広がれば良くなる」という反論があるかもしれません。本当に良くなるのでしょうか。
実は、電子申請の方が「申請有無の確認」「返信用封筒の作成」という2つの手間が増えています。
つまり、この電子申請が増えると内部事務は非効率化していきます。こんなのはDXではありませんし、デジタルによる効率化とさえも言えないでしょう
そしてハリボテに至る
そんなわけで、住民票請求に限りませんが、役所のオンライン申請フォームを見て「我が町はDXに取り組んでるな」と思っても、実は「カタチだけDX」「ハリボテDX」は皆さんが思っているより多いと推定します(R2のコロナ給付金騒ぎの時はボロが出たんですけど、あまり状況は変わってないと思います)。
しかし、役所はサボっているわけではありません。実は、
というのが一番大きいと思います。
これ、セキュリティ過剰じゃないかと思われるかもしれませんが、自治体数は多いためどこから穴があくかもしれないですし、総務省が心配するのも理解できます。
なので、
としてはどうかなと思っています。
特に自治体マイナンバー利用事務系は、近い将来、標準化により国が用意するクラウド上に構築するみたいですし、よりやりやすいと思います。
とはいえ、住民票請求についてはあくまでも「電子申請された住民票を郵送で届ける」というサービスの中での最適化であり、正直、職員が発行する手間もお金を収受する手間もない、コンビニ交付システムが現時点では最良のものでしょう。
それを超えるDXは、電子申請により「住民票を電子的に取得する」仕組みです。カード交付率によってはコンビニ交付システムさえ不要になるかもしれません。
そもそも、オンライン申請に使用する署名用電子証明書が個人の住民票と(機種依存文字を除けば)同一なので、個人の4情報を証明するだけならそれを相手に送るだけです。役所に対して住民票をオンライン申請する必要ないです
将来的にはこのようにあるべきです。とはいえ、ここまでに至るためにはもっと官民問わず情報リテラシー教育が必要でしょう。
DX系記事でも、
- 役所へのマイナンバーカードによる電子申請を進めるべきだ
- インターネットと役所のシステムは分離すべきだ
- セキュリティと利便性の両立を図るべきだ
というものが散見されます。はい、総論は正しいです。
正しいのですが、役所の住民情報を使わない電子申請なら困難ではありませんが、住民情報を確認しなれけばならない事務について、ネットと役所のシステムを分離してどう利便性を向上するのか各論に入った記事は多くありません。
「役所が遅れている」のは事実でしょうが、それなりに理由があり、解決しなければならない課題の根は深そうです。